
東京や愛知などさまざまな場所で建築に従事してきた私が山形に戻ってきたのは2014年のことでした。以来、地元であるこの山形という場所で建築に携わってきたわけですが、地方都市の建築の可能性のひとつは、建物本体に十分な予算をかけることができる、ということだろうと思います。
2016年に『大改造!!劇的ビフォーアフター(ABC朝日放送)』というテレビ番組に出演する機会がありました。これは、上山市内にある築150年の古民家を改修する仕事でしたが、そこで主たるテーマとなったのは「雪国での暖かい住まいづくり」というものでした。長い歴史を刻んできた家でしたから、梁や柱や土蔵など住み手の愛着の滲んだモノが数多く残されていました。住み手の思い出が詰まっているそうしたモノたちをうまく活かしながらも、高断熱高気密化することによって住宅の性能を向上させ、住まいの環境を快適なものにしていきました。断熱・気密により、冬でも暖かい家づくりをする、というのは今さら声高に語るべきようなことではなく、ごくごく当たり前に実践されるべき常識であるように思いますが、実際のところ、山形でも基礎断熱や付加断熱、気流どめといった取り組みをしている方は多くはありません。
上山の家/大改造!!劇的ビフォーアフター

宮内の家
東京のような都会では予算の多くを土地の購入に費やすことになります。しかし山形であれば、土地はずっと安いですから、同じ予算の多くを建物本体に充てることができます。デザインや性能に十分な投資を行うことによって、より良い住環境をつくることができるので、暮らしの質が上がります。さらに、敷地自体も広いので、ランドスケープも含めた設計の自由度もあります。建て主の方にとっても、光熱費を抑えることができます。さらにまた、住まいの性能が上がれば、そこに住まう人の健康にも良い影響を及ぼします。ヒートショックがないので医療費も減り、そこに暮らす個人にとってはもちろん、これからの社会にとっても良いことになるのです。
住まいの暖かさや快適さというのは、体感してもらえばその良さがすぐにおわかりいただけるはずです。だからこそ、個人宅だけでなく、例えば高性能の公共施設をつくることができれば、より多くの方がその価値を実感できることでしょう。今後ますますコンペやプロポーザルなどの機会を通じて、私を含めた若手建築家が地域の建物や風景と関わっていけたら嬉しいですね。
文化複合施設「gura」
そば処庄司屋 御殿堰七日町店

渋谷達郎さん
(建築家・アーキテクチュアランドスケープ一級建築士事務所)
山形県長井市生まれ。一級建築士。登録ランドスケープアーキテクト。慶應義塾大学大学院理工学研究科前期博士課程修了。修士(工学)。隈研吾建築都市設計事務所ほかを経て、アーキテクチュアランドスケープ一級建築士事務所設立。「大改造!!劇的ビフォーアフター(ABC朝日放送)『雪国の住医』」。東北建築賞作品賞・グッドデザイン賞ベスト100など受賞多数。
参照記事:reallocal 山形 https://reallocal.jp/66304